上杉聡氏(大阪市立大学)は枝葉すらも誤るという例

 「これでなっとく!部落の歴史」という著書は誤りだらけだが、枝葉すらも誤りだという例がある。
 部落は「門地」でなく「社会的身分」にという誤りである。P191に1946年の貴族院憲法改正案特別委員会での憲法担当大臣の答弁をその根拠としている。担当大臣が「貴族がこの社会的身分であると云うことは申しません。むしろ主たる関係は門地と云う方に属すると思って居ます。社会的身分と申しまするのは、結局社会的なる事情によって起こって居る一つの特性から来る身分であります、それは丁度人の上に貴族を考えるのと同じような意味に於いて、反対の側に今日考えられて居るある人々の集団があるのではないか・・・」という答弁を根拠に、部落は社会的身分の問題であると結論づけているのである。
 担当大臣は「部落問題は社会的身分の問題であると結論づけていない。」のにもかかわらず、上杉氏は、それらしきことを言っているから、そうであると断定しているのである。
 ちなみに、育鵬社の公民教科書には、「部落問題は門地の問題である」と書かれている。
 門地というのを辞書で引けば、「門地というのは、家柄、系譜のよしあしによる家の位置づけ。その基準は時代により異なるが,基本的には古代の天皇,貴族に先祖がつながるものがよいとされ,姓を源平藤橘とするのはその代表。同一の家系では傍系よりも直系,新しい家よりも古い家がよいとされた。」というようなことが書かれている。
 社会的身分というのを辞書で引けば、「人が社会において一時的ではなく占めている地位で、自分の力ではそれから脱却できず、それについて事実上ある種の社会的評価が伴っているものを意味する。」と言うようなことが書かれている。
 部落問題は、家柄の問題かと言えば、???ということになるのは確かだ。
 では、社会的身分の問題かと言えば、???ということになるのは確かだ。
 最高裁判例で考えると明らかだ。

最大判昭和25年10月11日】
憲法一四条一項の解釈よりすれば、親子の関係は、同条項において差別待遇の理由としてかかぐる、社会的身分その他いずれの事由にも該当しない。

*親子関係は社会的身分ではないとしている。

最大判昭和39年5月27日】
要旨
 町長が町条例に基づき、過員整理の目的で行なつた町職員に対する待命処分は、五五歳以上の高齢者であることを一応の基準としたうえ、その該当者につきさらに勤務成績等を考慮してなされたものであるときは、憲法第一四条第一項および地方公務員法第一三条に違反しない。

*高齢であることは社会的身分ではないとしている。

【東京高決平成5年6月23日】
要旨
嫡出でない子の相続分を嫡出である子の相続分の二分の一とする民法九〇〇条四号ただし書の規定は憲法一四条一項に違反する。

*非嫡出子に対する差別は社会的身分による差別にあたるとしている。
*結婚していない男女の間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続分を嫡出子の半分と定めた民法の規定が、法の下の平等を保障した憲法に違反するかが争われた2件の家事審判の特別抗告審で、最高裁大法廷(裁判長・竹崎博(ひろ)允(のぶ)長官)は平成25年9月4日、規定を「違憲」とする初判断を示した。14裁判官全員一致の結論。

最判昭和30年8月18日 業務上横領】
要旨
刑法二五三条の業務上他人の物を占有するということは、犯罪者の属性による刑法上の身分であるが、憲法一四条にいわゆる社会的身分と解することはできない。

*犯罪者は社会的身分ではない。

最大判昭和26年8月1日・常習賭博】
要旨
刑法一八六条の賭博常習者は、憲法一四条にいわゆる「社会的身分」ではない。

最判昭和24年6月16日 傷害詐欺事件】
要旨
判決中に「被告人は土木請負業関根組の最高幹部であつた」と判示したからといって、それは本人の経歴を示したものにすぎず、直ちに被告人に対してその社会的身分または門地によって差別的取扱いをしたものと解することはできない。

最高裁判例を見限り、非嫡出子が社会的身分にあたることだけは確かである。