人権教育教材集・資料教員用手引き批判

人権教育教材集・資料(平成23年度版・大阪府教育委員会作成)教員用手引き批判
            

1,はじめに
 大阪府教委は、部落解放同盟傘下の解放教育研究所を儲けさせるために、あやまった部落問題の認識を広げるやめに、解放教育副読本「にんげん」(批判を浴びて人権教育副読本という名称にした)を長年配布し続けた。さらに批判をあびて、2010年に配布を中止した。
 ところが、2011年これまでの批判をよそに、「にんげん」教材をもとに、府教委は人権教育教材集・資料を作成した。内容に関しては、すでに批判されているところであるが、2012年、府教委は教員用指導の手引きを作成し府下の各学校に配布した。
 この手引きには、「旧にんげん」をひきついでいるもの、文部科学省流の道徳副読本「心のノート」亜流のもの等が混在している。特徴的なものをいくつか取り上げて府教委の人権教材に関する考え方を批判していきたい。

注: 小低9・・小学校低学年用の9番目の教材という意味。
   小高3・・小学校高学年用の3番目の教材という意味。
   中5・・・中学校用の5番目の教材という意味。

2,人権学習は、心の問題、上から目線の文科省道徳へ

*小低9「こんなことないかな」という教材は、悪い行動を行う子どもを見せて、そんな子どもになったらあかんという内容の教材である。
 P8の手引きには、
『「人権教育推進プラン」(平成十一年、大阪府教育委員会)の「低学年プログラム」では、「友達との間で起こるトラブルに対して、友達の行動や表れだけを見るのではなく、自分から素直に気持ちを出し合い、理解し合う中で、人を信じることの大切さに気づく」と示している。登下校、休憩時間は子どもたちが自由に過ごす時間だからこそ、もめごとが起こることも多い。しかし、そのもめごとも紐解いていくと、気持ちのすれ違った原因がある。そこに気づき、気持ちを伝えられるように、また、気持ちを聴きあえるようにしたいと願い、本教材を設定した。』
とある。子どもたちのもめ事の原因は、気持ちのすれ違いにあるというように、心の問題へと導くのがねらいとなっている。人権問題は、心の問題というわけだ。
*小低11「三組のクラスたいこうリレー」という教材は、文科省の「心のノート」と同様教材である。
 P10の手引きには、
『「友達は・(略)・、似た体験や共通の話題、互いの考え方などを交え、豊かに生きるための存在として、成長とともにその影響力を拡大させていく。このような・(略)に・関係を築くには、互いを認め合い、学習活動や生活の様々な場面を通して理解し合い、協力し、助け合い、信頼感や友情をはぐくんでいくことが大切である。」(学習指導要領解説・道徳編)このような互いの育ち合いが大きく期待できる「場面」の1つが学校行事である。』
とある。学校行事は、文科省道徳のためにあると言っている。そして、この教材は文科省道徳を教えるためのものだといってる。人権学習は道徳学習となっている。

3,人権学習はキャリア教育だ

*小低41「どんなしごとがあるのかな」
 P37の手引きには
『教材設定の理由「人は、他者や社会とのかかわりの中で、職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割を担いながら生きている。・人は、このような自分の役割を果たして活動すること、つまり『働くこと』を通して、人や社会にかかわることになり、そのかかわり方の違いが『自分らしい生き方』となっていく」(平成二十三年一月、中央教育審議会答申)』 
*小低42「大きな手 大きなせ中」小低43「はたらくお母さんはたらくお父さん」
 P38の手引きには
『教材設定の理由「家庭は、子どもの成長・発達を支え、自立を促す重要な場であり、働くことに対する保護者の考え方は、子どものキャリア発達に大きな影響を与える。保護者が、子どもに働く姿を見せたり、子どもと働くことの大切さについて話し合ったりすることを通じて、子どもは多くのことを学ぶ」(平成二十三年一月、中央教育審議会答申より)』
*小高32「一心不乱に磨く」小高33「これだけはわかってほしい」
 P70の手引きには
『教材設定の理由 本教材は、【31】に引き続き、職業について、考察を深めるための教材である。仕事へのやりがい、誇りを感じとらせたい。望ましい職業観を育て、社会的・職業的自立に向けIて必要な意欲・態度や能力を育てようとするキャリア教育の目標は、人権教育の目標と通じる。望ましい職業観とは、「理解・認識面では、?職業には貴賤がないこと、?職務遂行には規範の遵守や責任を伴うこど、?どのような職業であれ、職業には生計を維持するだけでなく、それを通して自己の能力・適性を発揮し、社会の一員としての役割を果たすという意識があることなどがあげられる」。また、「情意・態度面では、?一人ひとりが自己及びその個性をかけがえのない価値あるものとする自覚、?自己と働くこと及びその関係についての総合的な検討を通した、勤労・職業に対する自分なりの備え、?将来の夢や希望をめざして取り組もうとする意欲的な態度などがそれに当たる」。(中学校キャリア教育の手引き(平成二十三年、文部科学省)』
 というように手引きの教材設定の理由をあげたが、なんと中学校のキャリア教育を小学校から取り組ませるというのまで設定理由となっている。キャリア教育のあり方についてもかねてから論議のあるところだ。就活、過労死、非正規雇用、時給が1000円にも達しないワーキングプアの実態などなどの問題を考えさせないキャリア教育ではなあ・・

4,人権学習で橋下市政、松井府政の嘘を美化

*小低15「歩道きょうができるまで」
 P14の手引きに
『教材を活用するにあたっての留意点、指導者は教材の活用にあたり、それぞれの地域には、人々の生活や安全を守るような公共施設等があり、歩道橋のケースはその例であることをふまえる必要がある。例えば、府内には、地域の人々の健康を守るための診療所が多くの人々に利用ざれ、総合病院となったものもある。診療所ができるまでは、病気になっても遠くの病院まで通わなければならず、そのために救うことができなかった命もあったらしい。』
とあるが、橋下、松井、維新の会は総合病院をはじめ、公共施設を軒並み廃止している。維新の会は、つくられた歩道橋までつぶそうとしていると教えるのならこの教材は役立つかもね?

5,人権学習で原発事故は風評被害

*小低35「ピカドン」は、いくらフィクションだから嘘をついてもよいとはいえ、原爆で立ったまま死んだ兵隊がさわると砂みたいにざらざらと崩れ落ちたという真っ赤な嘘が書かれた教材だが。
 P32の手引きに
『なお、本教材は平和学習を意図して設定したものであるが、平成二十三年三月十一日に起きた東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する風評被害により、福島県住民や福島から避難している被災者が辛い思いをしている状況があることから、当該の子どもが在籍する場合はその子どもの気持ちに十分配慮する必要がある。また、場合により、子どもたちに科学的知識に基づく説明を施すことが必要になることにも留意しておきたい。』
*小高28「ヒロシマには歳はないんよ」は、被害者告発主義の教材だが。
『なお、本教材は平和学習を意図して設定したものであるが、平成二十三年三月十一日に起きた東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する風評被害により、福島県住民や福島から避難している被災者が辛い思いをしている状況があることから、当該の子どもが在籍する場合はその子どもの気持ちに十分配慮する必要がある。特に、本教材の中に、被ばく者などに対して「病気がうつる」という表現が出てくるが、子どもたちには科学的知識に基づく説明を施すことが必要になることにも留意しておきたい。』
というような留意点が書かれている。原発事故による放射能汚染が原因で避難を余儀なくされたのではないのか。風評被害が原因なら、風評というのはそもそも嘘偽りなのだから、避難しなくてよい、避難するのは間違いだと教えればよいのだ。放射能被害を風評被害にすりかえるためにこの教材はあるのだ。それに、この教材で配慮される子どもとは、被爆4世、5世、6世ではなかろうか。「病気がうつる」というような表現がある教材を、わざわざ教える必要はないのだ。

6,徳目道徳環境教育が人権学習、行動することが目標に

*小低38「なんじゃこりゃ」は、ゴミに関して悪い行動見本提示して考えさせるいかにも府教委的が考えそうな教材。
 P34の手引きに
『子どもたち一人ひとりが発達段階に応じて、地球規模の環境問題について問題意識を持ちつつ、身近な問題について考え、行動していくことをめざしていきたい。・・・本教材にあるような投棄されたごみにより迷惑を被る人や、それを処理する人の存在にも着目させ、実生活での子どもたちの経験と重ねながら、考え行動につなげていく取組みにしていきたい。』
というように、ゴミをほかすな、ゴミは拾え、と教えて、行動させることが人権学習とされるのだ。環境教育は、ゴミひらいからという心がけ、徳目道徳化されている。
*中27「いま地球がたいへん」
 P98の手引きに
『本教材は、環境問題を考える学習の導入に使用できる教材として作成したものである。・・日常を超えた、社会全体や地球全体に関わる課題を取り上げることによって、逆に身近な課題についての認識が深まり、人権問題と自らのつながりが見えてくることも考えられるのである。・・また、東日本大震災による原子力発電所の事故も受け、これからの地球のため、未来のために、何をしていくべきか、そのような社会であるべきかを考えさせたい。』
というように、環境問題を考えるのも人権学習とされている。なんでもかんでも人権学習というわけだ。原発事故も受けと書かれているが、放射能風評被害だと小学校で習った子はどうなるのだ。

7,個人情報収集が人権学習に

*小低40「おかあさんのしごと ホルモン」は、批判を浴びて改変された教材。改変される前は旧同和地区を肉屋や屠場と結びつける典型的な差別教材であった。そして地区のフィールドワークをさせようという教材であった。改変されたとはいえ、問題性は薄まっただけである。
 P36の手引きに
『「生活を支えている働く人の姿」をリアルにとらえる見方を育てていきたい。そのために、教職員は地域へ、家庭へと赴き、親に仕事について聞くことから始めなければならない。そして、親の仕事にたずさわっている親の心意気や、人となりが伝わってきたとき、子どもに具体的に何を見させればいいかがはっきりしてくるのである。』
とある。この教材を学習するに際しては、親の職業、家庭状況の聞き取りをしなさいと言っている。親の個人情報の収集をわざわざしなさいと言っている。親からの相談があるとか、親と相談すべきことがあるから出向くというのなら分かるが、教材のための個人情報収集のために出向くというのは本末転倒だ。

8,人権学習を人間関係の問題解決に矮小化

*小高14「わたしたちの権利」
 P52の手引きに
『子どもが人間同士の関係について考えるための基礎・基本として「日本国憲法」「世界人権宣言」や「子どもの権利条約」などの理解を深め、権利に関する知識を習得する学習は必要である。・・・世界には、「子どもの権利条約」に定められた権利を享受できず苦しんでいる子ども、命さえ失う子どもがいること、日本においても虐待やいじめ等により権利を奪われている子どもがいることを知り、自分の権利を大切にするとともに自分の友だちや学級・学年、学校すべての子どもの人権を大切にするために何がでぎるかを考えさせ、実践的行動につなげたい。』
とある。「日本国憲法」「世界人権宣言」や「子どもの権利条約」は、子どもの人間関係を考えるためにあるのか。権利を私人間の関係に矮小化している。虐待やいじめをなくしていくことは大切であるが、この問題も私人間の問題に矮小化している。
*中9「わたしたちの世界人権宣言」
 P80の手引きに
『木教材の中にある「あなたのクラスの人権宣言を考えよう」では、今のクラスの状況や、一人ひとりが守られていないと思う権利を出し合う中で、クラスでマイノリティの立場にある仲間の存在に気づき、クラスのすべての仲間の人権を守ることができるよう考えさせていきたい。』
とある。クラスには多数派と少数派(マイノリティ)がおり、権利が守られている多数派は、権利が守られていない少数派に気づき、少数派の権利を守らなければならないという組み立てだ。多数派、少数派という私人間の問題に権利学習を矮小化しているのだ。

9,人権学習のメインは時代錯誤の部落問題学習

*中14「ゆきの選択」は、「旧にんげん」が続く極悪教材。私は、部落出身者だといつまでも言いつづける人間を作る教材。部落差別は許さないと口では言いながら、部落は**地区だと教え、**さんは部落出身者と教えるという、部落地名総監作りをやろうという教材。
 P85の手引きに
『二〇一〇(平成二十二)年度に実施した「人権問題に関する府民意識調査」によると、同和地区や同和地区の人に対する差別意識が今も残っているかどうかについて、半数以上(五十三・三パーセント)の人が「差別意識は薄まりつつあるが、まだ残っている」と考えており、「差別意識はいまもあまり変わらず残っている」(十三・ニパーセント)「差別意識はさらに強くなっている」(〇・三パーセント)をあわせると、六十七・〇パーセントの人の差別意識はいまも残っていると考えています。また、住宅を避ぶ際に、同和地区内の物件を忌避すると思うと回答した人は、「同和地区の地域内であれば避けると思う」という人が五十五・三パーセント、「小学校が同和地区―同じ区域内になる場合は避けると思う」という人が四十二・九パーセントとなるなど、なお差別意識の解消が十分に進んでいないことも明らかになりました。同和問題を解決するためには、この問題に関して、わたしたち自身が自分自身の問題として考えていくことが大切です。以上、人権情報ガイド「ゆまにてなにわ・25」(平成二十三年、大阪府人権室)』
とあるように、人権室資料をもとに意識調査を恣意的に解釈しています。「差別意識は薄まりつつあるが、まだ残っている」というのは、人権学習、人権啓発の成果で「まだ残っているが、薄まりつつある」ととらえるのが普通です。でなければ、今までやってきた人権学習や人権啓発に誤りがあったということになる。地区内の物件に関するアンケートが、購入物件の価格と条件が合致していることを除いて、どうかという尋ね方をしており、意図的なアンケートであることが明らかになっている。いずれにしても時代錯誤の部落問題学習を行うとしていることは明らかだ。
*中15「部落史を歩く」は、「旧にんげん極悪教材」である。この中で、ある部落では・・・この部落では・・・という具合で、次から次へと部落部落が連発され、読めば、ここで出てくる部落というのは、どこの地区を指しているかがすぐわかるという教材である。
 P86の手引きに
『私たちの生活の中には、被差別部落の歴史や文化に支えられてきたものがたくさん存在している。厳しい差別の現実の中をしたたかに生き抜いてきた人々の歩みをいきいきと子どもたちの前に映し出すことで、「人間が、見える」部落史学習をつくっていくため、本教材を設定した。歴史に学ぶことによって現代の課題と今後の取組みの方向について正しい認識を培うことをねらいとしている。』
とあるが、同和対策事業が実施されたことは触れられているが、なぜ終了したことかは触れられていない。当然、課題とされるのも法終了前のものであり、取り組みの昔のままのものになっている。府教委は22世紀まで部落問題の解決を延ばすつもりであることがよく分かる手引きである。
*中16「みんなにつたえたい」も、「旧にんげん極悪教材」の一つであり、解放同盟流の識字学級論の教材である。
 P87の手引きに
『本教材を活用するにあたっては三つのことをふまえたい。一つめは、主人公が文字を奪われていった背景に同和問題があったこと。戦後、憲法は教育の機会均等、義務教育の無償を明記したが、実際には学校に通うことが出来ず、「長欠・不就学」を余儀なくされ、その結果文字を奪われ、学力を身につけることができなかった子どもたちが多数存在した。こうした子どもたちに向き合ってきた教職員は、彼らの長欠・不就学の背景に同和問題があることに直面する。子どもたちの保護者は部落差別によって安定した仕事に就けず、子どもたちは家庭を支えるために働かざるを得ない実態があった。また、彼らは学校で被差別部落出身であることを理由に差別されていたのである。・・・』
というように、50年前の昔の話をいまだに、まるで今もあるがごとき教材設定の理由としている。いつまで時代錯誤の認識を生徒にあたえるのだ。
*中28「卒業」
 P99の手引きに
『卒業後に自分の被差別の立場を伝えてくれた仲間のことから小学校や中学校で学んだ人権教育と出会い直しをした子どもの文章を掲載している。・・・マイノリティの立場を打ち明けてくれる仲間や、自分のつらい思い出を語れる人間関係や集団の重要性を伝えるときも活用していきたい。』
というように、マイノリティの立場を宣言させることにつなげたいことがにじみでている。昔はやらせた部落民宣言、本名宣言を今一度という思いがこの教材のねらいとなっている。

10,日本軍の関与がない沖縄戦育鵬社の教科書か?

*中24「写真の中の少年」は、かなりの説明がなければ意味の理解はできない教材である。
 P95に手引きに
『教材を活用するにあたっての留意点 沖縄の住民は、沖縄戦ではアメひ力軍の攻撃を防空壕(ガマ)に逃れて避難しだことや、「生きいて虜囚(りょしゆう)の辱(はずかしめ)を受けず」などの「戦陣訓」の教えにより、捕虜となり敵国に捕らえられることを恥とするする教育がなされていたことに留意する必要がある。その上で、〈教材の最後にある、少年の「お母さんと死ぬなあいいと思って出た。」という言葉について、子どもたちとともに考えたい。』
とあるように、日本軍の関与に関する留意点はない。もちろん教材設定理由にも、日本軍の関与に関するものはない。