国勢調査を活用した実態把握報告書(第1次)

平成26年9月大阪府府民文化部人権局作成
を読んで分かること。

 平成22年10月現在の国勢調査をもとに独自集計したものである。府下全域、対象地域(「旧同和対策事業対象地域」)、基準該当地域(対象地域と同様の課題がある地域として抽出した地域)との比較資料が実に興味深い。
 基準該当地域が対象地域と同様の課題がある地域ととらえるのは適切でないと本文に断り書きがあるが、比較対照して考えるには妥当である。府下の対象地域をほとんど回った経験からいえば、公営住宅がほぼ100%という地域と府営住宅がほぼ100%という地域を比較対象することは可能である。だいたいよく似ている地域を比較することは意味があることで、新たな枠組みを導入したことは評価できる。基準該当地域の人口は415453人、204632世帯である。
 同様の課題というのは、同和問題に起因する諸課題ではないのはいうまでもないが、起因しない課題に関しては同様の課題を抱えていると判断できる地域である。
 有り体に言えば、対象地域の課題が同和問題に起因すると言えないならば、基準該当地域と同じ課題であると言えるのである。この報告書を読めば、同じ課題を有すると言えるのは明白である。つまり、断り書きはいらないのである。

(世帯員の年齢構成)
*対象地域では高校・大学卒業後、就職のため地域外へ流出する者が多くなっている。
*平成22年ではピーク時の昭和50年と比較して、対象地域の居住人口はほぼ半減している。(149157人→79411人)1981年から1990年にかけての人口減少幅が最も大きい。
*対象地域の「単独世帯」比率は府下全域(35,7%)を大きく上回り、世帯構成の半数弱(48,6%)を占めている。基準該当地域も42,2%と高い。
*高齢単身世帯は、対象地域(18,4%)基準該当地域(22,1%)。高齢夫婦世帯は、対象地域(8,3%)基準該当地域(12,0%)と高い。
*同和対策事業が始まり公営住宅が多数建てられ、地域外からの居住者が増えて人口増となったのが1981年。その後は、学校を卒業した若者は地域外へと出て行った結果、高齢者がとりわけ公営住宅に取り残されという事が分かる。同様なことは、基準該当地域でもいえることであり、同和問題が原因として年齢構成に差異があるとは言えないことが分かる。

(世帯員の学歴構成)
*対象地域の2000年調査と2010年調査との比較すると、大学・大学院が296人(4%)→4561人(9%)。うち男子が217人(6.3%)→3193人(13,3%)、女子が79人(2%)→1368人(5,2%)。比率も倍増している。
*高校・大学卒業生のうちの相当数が地域外へ出て行っていることを差し引いても、対象地域の高学歴化が相当進行している。
*対象地域と府下全域との高学歴化の比較では、構成比で2分の一以下と差があるが、基準該当地域との比較ではほとんど差はない。
*年齢階層別の比較においても、最終学歴高等教育修了者割合を見ても、府下全域との比較では差があるが、基準該当地域との比較ではほとんど差はない。
*対象地域では高校・大学卒業生のうちの相当数が地域外へ出て行っていることを考慮すると、府下全域との差はさらに縮まることが予想できる。
*これらのことから同和問題が原因として学歴構成に差異があるとは言えないことが分かる。

(労働の状態)
*労働力状態を比較すると、対象地域は府下全域より低いが、基準該当地域よりは高いといえる。
*年齢階層別の労働力率を比較すると、男性60歳代で府下全域と対象地域との比較で8ポイントの差があるが、それ以外では、そんなに差が無いことが分かる。また、基準該当地域とは、ほとんど差がないと言える。
*年齢階層別の就業率を比較すると、男性の場合、対象地域は府下全域より低いが、基準該当地域と比較すると30歳以上ではいずれも高い。女性の場合は、対象地域が20歳代で府下全域より6ポイント低い以外は、ほとんど同様であり、基準該当地域とも差がない。
*年齢別の完全失業率を比較すると、対象地域は府下全域より、男女ともに失業率は高い。基準該当地域と比較すれば、男子で50歳代で5,5ポイント良い以外ではほぼ同じであり、女子ではどの世代もほぼ同じである。
*従業上の地位に関しては、正規雇用、会社役員を比較すれば対象地域は府下全域より低いが、基準該当地域より高い。自営業種に関しては、ほとんど差がない。
*職業構成に関しては、ホワイトカラー層を比較すれば対象地域は府下全域より低いが、基準該当地域より高い。ブルーカラー層を比較すれば対象地域は府下全域より高いが、基準該当地域より低い。
*以上のことから、同和問題が原因として労働の状態に差異があるとは言えないことが分かる。

(住まいの状況)
*対象地域の2000年調査と2010年調査比較で、公営の借家(4758戸、61,6%→16010戸、40,7%)持ち家(2278戸、29,5%→11009戸28,0%)民営の借家(514戸6,7%→1180戸28,4%)というように、民営の借家が大幅に増加している。
*割合は変化がないが、持ち家数が増加し、民営の借家が割合、数ともに大増加していることから、解放同盟などがさかんに宣伝していた同和問題に起因する土地差別云々は実態を無視した空論であることが分かる。

(移動者の状況)
*現住地居住期間別世帯員数の状況を見ると、出生時からの居住は府下全域(8,8%)対象地域(8,6%)基準該当地域(6,4%)というように大差がない。
*居住期間10年未満の移動者の学歴構成を見ると、「大学・大学院層」を比較すると府下全域が23,2%、対象地域が10,4%。「小学校・中学校層」を比較すると府下全域が11,8%、対象地域が25,4%。つまり、対象地域では低学歴層が転入し、高学歴層が転出していることが分かる。同様なことは、基準該当地域でも言えることである。
*対象地域は公営の借家の比率は下がったとはいえ、今なお大きな比重を占めている。入居基準を考えれば高学歴、高所得者は公営の借家から追い出され、低学歴、低所得者しか入居できないのが現状である。このことから、移動者の状況は同和問題に起因するとはいいがたいことが分かる。

(私なりの結論)
*実態把握報告書を真摯に読めば、対象地域の諸問題は同和問題に起因するものではない。