育鵬社版中学校公民教科書「部落差別」記述の誤り

2015年採択の育鵬社版中学校公民教科書の部落問題に関する記述を見たが、現行の記述は相変わらず改善されていない。他の公民教科書の認識とは大いに異なるのだ。育鵬社版中学校公民教科書の誤りを放置する文科省の部落問題に関する認識に問題があるためなのだが。
 教科書69ページに「部落差別は憲法が禁止する門地(家柄・血筋)による差別のひとつに当たります。・・・今日でも結婚などのときの障害になったり、インターネット上に差別的な書きこみが見られるなど、完全に解消されていません。」とある。これは、政府見解とは全く異なる。
 政府の同和対策審議会答申(1965年)によれば、「いわゆる同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分的階層構造に基づく差別により・・」何のことかと言えば、「封建制度の残りかす」なのだ。
 属人の問題(家柄、血筋)であれば、どこに居住しているのかなどは、関係がない。○○さんのご先祖様は○○の家柄、血筋であるから差別されるということである。 政府見解は、属地の問題であるとしている。同和対策審議会答申(1965年)によれば、
「・・その特徴は、多数の国民が社会的現実としての差別があるために一定地域に共同体的集落を形成していることにある。最近この集団的居住地域から離脱して一般地区に混住するものも多くなってきているが、それらの人々もまたその伝統的集落の出身者なるがゆえに陰に陽に身分的差別の扱いをうけている。」
とあるように、属地の問題(共同体的集落、伝統的集落)としている。
 属地とはどの地区のことかと言えば、同和対策審議会答申(1965年)によれば、
「当該地方において、一般に同和地区であると考えられているもの」とあるように、明確な定義ではない。
「一般に考えられている」のなら「一般に考えられなくなったら」同和地区なるものは存在しなくなるということなのだ。
 政府は2002年に同和問題の特別対策を終了させたが、その理由として(総務省の同和行政史49ページ)「1,一般地区と同和地区との格差是正が進み、差別を生む状況ではなくなった。2,これ以上続けると社会的公平を確保できない。3,優遇措置を続けると、新たな差別意識の要因となり、心理的差別の解消にならない。」の3点をあげている。
 育鵬社版は、特別対策の終了を載せずに、いまなお特別対策が続いているとの誤解を与えている。
 結婚差別が克服解消されている現実には触れず、どこの誰が書いたのかもわからないような、インターネットの書きこみ(落書き)を差別の例としてあげるなど、無責任な通説を載せるなどお粗末である。
 文科省は通説がないときは通説が無い旨を明記せよとの新設された検定基準を振り回しているが、育鵬社には、あまあまのダブルスタンダードの検定基準をおこなっているのだ。