育鵬社版中学校歴史教科書「部落問題記述の問題性」

2015年採択の中学校歴史教科書の「部落問題記述の問題性」に関して比較検討を行った。結果を先に言えば、最悪なのが、育鵬社自由社版教科書、良いのが学び舎版教科書である。
 室町文化に関して、庭園づくり等に関しての取り上げ方で、問題性があるのが、教出、帝国、東書、日文の各教科書である。「けがれ」概念を持ちだし、河原者=けがれた者、けがれた者が庭づくりを行った、という説明である。中学生に「けがれ」概念が理解できるのか。文科省は、中学生が「けがれ」概念を理解できると考えているようだ。お粗末な検定。
 この点で言えば、育鵬社は側注であっさりとふれる程度、自由社記述なし、清水記述なし、などが良い。学び舎はコラムでのなかで、「庭つくりに当たったのは、河原者とよばれた低い身分の人たちであった。」と説明しているが、まあこの程度が許容できる範囲か。
 身分制にかかわって、教科書検定のお粗末さが実感できるのが、身分制の人口割合のグラフである。どの教科書も関山直太郎「近世日本の人口構造」が出典と書いている。町人の割合であるが、清水、育鵬、東書、自由、が約5%と、学び舎、日文、帝国、が約6%となっている。出典が同じで異なるデータが載せられている。
 身分による社会というのは、それぞれの身分には、生業と役があったという理解が不可欠である。
 この点的確名説明がなされているのが学び舎で、117P「・・・村に住む百姓身分の人で、田畑を耕作するなどして、年貢を納めることが役でした。・・」とあるように生業が田畑の耕作、役が年貢というような的確な説明が必要である。
 育鵬社版は、123P「百姓・町人とは別に、えた・ひにんとよばれる身分もありました。これらの人々は農業のほかに、死んだ牛馬の処理や、皮革製品を作ったり、役目として罪人の世話などを担当し・・・」というように、えたとひにんを同一しする間違った記述を行い、さらに生業と役を同一する間違った記述を行っている。
 育鵬社自由社版は、「四民平等」というタイトルで、「明治政府は四民平等をかかげ人々を平等な権利と義務をもった国民に・・・」という記述で、解放令を取り上げている。
 そもそも「四民平等」ではなかったのが真実で、学び舎版のように「古い身分の廃止と新しい身分」というタイトルにすべきものである。
 皇族、華族、士族、平民という新しい身分が明治政府によってつくり出され、「えた」「ひにん」などの賤民身分の人々は「平民」とされたというのが真実である。
 血筋や家柄というのが、旧憲法下では存在し、そのことによる差別が存在したのである。
 育鵬社自由社版教科書はともに、戦後の部落問題に関する記述は全くない。
 なお東書は、今回262Pの側注部分で「現在特別措置法にもとづく対策事業は終了しましたが」の部分を削除し、今なお特別対策が続いているがごとき説明にしたのは問題である。各社とも、特別措置法に関する記述を行うのであれば、終了している事実をきちんと記述すべきである。