八尾市「人権についての市民意識調査報告書」2010年3月を読む

(1)はじめに
 この調査に関する問題点は、多々これまで批判され尽くしてきた。一番の問題点は、「同和地区住民意識調査」を行ったことだ。八尾市が、特定の八尾市民を選んで「あなたは同和地区住民」だと認定判定したことだ。2002年に同和対事業に関わる法が終了しているのにもかかわらず、対象地区住民だと判定するのだから言語道断である。
 しかし、一応八尾市が行った調査でもあり、八尾市のHPでだれでも報告書が読めると言うこともあり、内容の検討を行いたい。

(2)回収状況から
 「同和地区住民意識調査」は、発送数800,未着数が7、有効回答数が299,有効回答率が37,7%、であった。調査票が送られた市民からは、批判、苦情が市役所にかなり寄せられたと聞いている。回答数、回答率の低さも、こんな調査に応じられないという住民の拒否反応によるものと思われる。

(3)回答者の属性から
 299人の回答者で、60歳以上が52.6%を占めている。女性が56,9%を占めている。これは、地区住民の多くが市営住宅に住んでいる実態からも高年齢化が進んでいることによると思われる。
 同和対策事業特別措置法が1969年がつくられ、2002年に法が終了するまで33年間対策事業が続けられたことを考慮して、事業の有効性を考えていくことが必要である。

(4)最終学歴に関して
 回答数が少ないので留意する必要があるが、義務教育だけという人は、20歳代が0/21、30歳代が2/33、40歳代が1/39、50歳代が15/40、ということから事業が成果を上げたということがわかる。

(5)職業に関して
 職種と雇用形態を混同させた調査(項目が、常雇い、臨時雇用、日傭い、会社・団体等の役員、自営業主、自営業の手伝い、など)なので実態がつかめない内容となっている。無職(45,8%)が多いのは高年齢者が多いためである。
 市役所の公務員ですら、非正規雇用が半数近くを占める実態を考えれば臨時雇用(17,4%)が常雇い(14,7%)を上回っているのは不思議でなことではない。20歳代無職が3/21、30歳代無職が6/36、40歳代無職が10/39、50歳代無職が16/40であるが、今日の雇用状態の実態を反映しているといえる。

(6)出生地に関して
 「現在住んでいる地域ではない同和地区以外の地域」との回答が55.5%であることからも混住が進んでいるのは明白だ。

(7)「同和問題」「部落問題」を知った時期ときっかけに関して
 20歳代から40歳代の約8割が小学校の時期に、約5割が学校の授業で教わったと答えている。学校教育の影響力の高さがわかる。

(8)「同和地区出身」と思うかに関して
 よくこんなことを平気で尋ねる方も尋ねる方なら、答える方も答える方だが、「思う」が34,4%あり、その理由が複数回答で「自分が,現在同和地区に住んでいるから」が64,1%、「自分の出生地が同和地区にあるから」が55,3%である。「思わない」理由が複数回答で「出生地が同和地区ではないから」が68.0%、「親あるいは親戚の出生地が同和地区でないから」が22.4%である。そして、こういう質問をして市民に意識させること自体が大問題なのだ。

(9)就職する際の不利に関して
 「不利になると思うか」という極めて主観的な問いであるから、回答のトップが「わからない」38,1%であるのは、当然であろう。さらに主観的に「不利になると思う」と回答した(117)内の約6割が「なくすことは難しい」と回答しているが、これも当然の帰結であろう。

(10)結婚の際の反対に関して
 「反対されることがあると思うか」という、これまた極めて主観的な問いであるから、回答のトップが「わからない」34,4%であるのは当然だ。これまた「反対されると思う」(155)との回答の約6割が「なくすことは難しい」と回答するのも、当然の帰結だ。
 就職、結婚に関しては、そもそも学校教育で、とりわけ中学校の公民教科書などの記述を見ると、「なくすことは難しい」というような記述がなされているのだから、そのように思うのは当然と言えば当然なのだ。
 就職、結婚に関しては、思う、思わない、というような主観的な問いをすべきでないのだ。

(11)家や土地の購入に関して
 これも、就職、結婚と同様の回答となっている。主観的な問いだから当然だ。

(12)差別を受けたかどうかに関して
 差別を受けたというのが91人で、20年以上前の39,6%がトップ。その内容はというと、「ことばで」が56,0%でトップだ。
 つまり、差別というよりは侮辱、侮蔑というべき内容である。これも、思う,思わないという主観レベルの差別となっている。
 その時の気持ちは「いやな気分になった」の49,5%がトップ。そして「誰にも相談しなかった」という対処の45,1%がトップだ。
 意識のレベルの問題であるから,意識のレベルでの対応ということにならざるを得ないのだろう。

(13)差別をなくするために関して
 意見の重要度を尋ねている。「教育・啓発を積極的に行う」がトップで、次が「共同して町づくりをすすめる」となっている。実態的に差別が無くなっていることを表していると言えるだろう。

(14)「同和地区が誇りに思えるところ」に関して
 そもそも居住地を自ら「同和地区」と呼ばせ、誇りにしたり、させたりしたりさせること自体が疑問である。
 そして、「すぐれた文化がある」9.0%「住民の自主活動が活発である」9,7%「子どもの教育に熱心である」13,4%「すぐれているところはないと思う」12,4%、複数回答の結果で気になる点である。
 文化、自治、教育を誇りにし、誇りにさせる町づくりが望まれているのだ。

(15)困っていることや悩みに関して
 「特にない」の51,5%がトップである。困っている人が55人あり、相談先、複数回答で、「地域の民生委員・児童委員」が5,5%、「市役所や人権擁護機関」が16,4%という低さが気になる。住民自治、八尾市に対する期待度の低さの表れであると思われる。

(16)学校、職場及び地域などでの同和問題の学習経験に関して
 「小学校」での経験が20歳代で9割、30,40歳代で8割と、きわめて高率なのが特徴的である。それだけに、どのような教育を受けたのかが問われるところである。一連の回答を見てみると、教育が解決の展望を与えてきたと言うよりは、否定的な展望を与えてきたと言えるのではないか。八尾市の教育の中味に問題点があったといえるのではないか。