行政のすすめる「人権教育」はどこが問題か?

(回答)「基本的人権」を国民相互の心がけに矮小化することです。

日本国憲法の前文では「われらは、全世界の
国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和
のうちに生存する権利を有することを確認する。」
とし、憲法第3章の第11条から第40条までを基
本的人権の具体的な内容として示しています。
憲法11条「この憲法が国民に保障する基本的
人権は、侵すことのできない永久の権利として、
現在及び将来の国民に与へられる。」
以下、憲法の条文のテーマを列記してみます。

個人の尊重。生命、自由及び幸福追求権。法の
下に平等、政治的、経済的又は社会的関係にお
いて差別されない。選挙権。請願権。公務員の
不法行為による損害の賠償。奴隷的拘束及び苦
役の禁止。思想及び良心の自由。信教の自由。
集会、結社及び表現の自由と通信秘密の保護。
居住、移転、職業選択、外国移住及び国籍離脱
の自由。学問の自由。家族関係における個人の
尊厳と両性の平等。健康で文化的な最低限度の
生活を営む権利。教育を受ける権利。勤労の権
利。勤労者の団結する権利及び団体交渉その他
の団体行動をする権利。財産権。裁判を受ける
権利。生命及び自由の保障と科刑の制約。裁判
を受ける権利。…以下略。

教育委員会などがすすめている「人権教育」
は、果たして日本国憲法の掲げる基本的人権
豊かな内容を反映していません。

社会的経済的権力の人権侵害から目をそらせる
政府は「人権教育・啓発推進法」(2000
年)や「教育基本法」改悪(2006年)などを
もとに、道徳教育を強化し、「人権教育」を道
徳教育の一環として位置づけています。

政府の「人権教育」でいう「人権」は、公権
力・社会的経済的権力(行政や企業など)と国民
との間の問題(縦関係の問題)から目をそらし、
国民相互の心がけ・モラルの問題(横関係の問
題)に矮小化するものです。

専制支配に対して民衆が抵抗し勝ち取ってき
た「人権」が、日本では、政府が国民
を教育するキーワードになっています。
したがって各教育委員会の「人権教育」では
原発事故、ブラック企業などによって基本的人
権が奪われている現実に目を向けようとしませ
ん。

2004年3月に大阪市教育委員会が作成し
た「自己実現をめざす子どもを育てるために」
という冊子があります。「人権教育の深化充実
に向けて積極的な活用に努めていただきたい」
としています。
子どもの権利条約」を扱った学習計画で指
導のポイントとして「自分たちの日常生活や学
級・学年集団に目を向け、これまでのおこない
が、『子どもの権利条約』に反していないかを
見つめなおさせる」とあります(市教委冊子1
54ページ)。
子どもの権利条約」で子どもを責める、こ
れが行政の提唱する「人権教育」なのです。権
利行使の主体者として子どもを育てる視点はこ
こにはありません。