大阪市「平成27年度人権問題に関する市民意識調査」から

                亀谷義富


(1)同和問題を解決させない意識調査
 調査は2015年12月に実施。2016年6月に報告書公表。大阪市のHPで読むことができる。
 人権問題に関すると書かれているが、内容は同和問題意識調査であることは一目瞭然である。その内容は、読めば分かるが、同和問題を解決させない悪魔のサイクルになっている。
 同和問題で、「差別はあると思いますかと聞く」→「学校や教育啓発活動で、差別はあると教えられた。」→「教えられたと言うことは、差別はあるだろう。」→「意識調査によれば、市民は差別はあると思っている。」→「市民に同和問題に関して啓発活動をさらに行っていく必要がある。」というサイクルを繰り返すのが目的の意識調査である。
 この意識調査によって、就職や、結婚や土地購入などの差別があると市民に意識的に教えるのが目的になっているのだ。
 
(2)意識調査で同和問題の差別があると市民に教えることができたか?
 できたかどうか報告書を見てみよう。

*個別の人権問題に関する基本的な意識の状況について尋ねたところ、「関心がある」「少し関心がある」と答えた人の合計の割合は、『(2)こどもの人権』が89.6%と最も高く、次いで『(19)個人情報の流出や漏えいの問題』が84.0%、『(3)高齢者の人権』が82.5%となっている。
一方で、「あまり関心がない」「関心がない」と答えた人の合計の割合が最も高いのは、『(15)性的指向が少数派の人々の人権』で47.8%、次いで『(14)ホームレスの人権』が46.0%、『(16)性同一性障がいの人々の人権』が43.6%となっている。
 と報告書に書かれている。
「関心がある」という比較なら、女性(42%)、子供(60%)、高齢者(48%)、障がい者(43%)、個人情報(53%)という結果になっている。同和問題の関心が今ひとつだから、もっと同和問題の啓発をしなければならい、などという結論を、調査票作成に関与した、神戸学院大学の神原文子さんなら導き出すかもしれないね。

*自分自身の結婚相手を考える際に、気になること(なったこと)について尋ねたところ、「1.仕事に対する相手の理解と協力」と答えた人の割合が55.0%と最も高く、次いで「3.経済力」が54.0%、「2.家事や育児の能力や姿勢」が44.8%となっている。
自分のこどもの結婚相手を考える際の場合は、「3.経済力」と答えた人の割合が59.5%と最も高く、次いで「1.仕事に対する相手の理解と協力」が48.3%、「2.家事や育児の能力や姿勢」が47.2%であった。
 と報告書にある。
 同和問題は、自身の場合は、20,3% 子供の場合は、20,5% である。これは、離婚歴(自身24,5% 子供29,6%)よりも低く、学歴(自身14,5% 子供18,7%)より高い。
 「性格」や「人柄」などという5年前にあった質問項目を今回削って同和問題の%を上げようという努力はそれなりに報われたといえるかなあ。
神戸学院大学の神原文子さんなら、5人に一人が気にすると言っている、だから同和問題の結婚差別はまだまだ厳しく、差別が行われていて、解決されていないなどとという結論を引き出すのではなかろうか。

*問5 あなたは、住宅を購入したりマンションを借りるなど、住宅を選ぶ際に、価格や立地条件などが希望にあっていても次の(1)〜(5)のような条件の物件の場合、避けることがあ
ると思いますか。すべての項目についてお答えください。(それぞれ1つに○)
 という質問が調査票にある。
 これぞ究極の差別質問である。価格と立地条件が希望に合っていれば、借りたり購入したりするのが普通の大阪市民であり、価格と立地条件が希望に合わなければ借りたり購入したりしないのがこれまた普通の大阪市民である。にもかかわらず、こういう質問をするのは恣意的、差別的と言わざるを得ない。
 どうしても大阪市民に、このような差別質問をしたければ、このような差別質問をしてみたらどうだろう。
 「隣にヤクザの親分の家があるが、50坪の新築物件で、なんと販売価格があり得ないという総額100万円の超格安物件です。あなたなら購入しますか。」という質問で、「私は買います。」と答えた人に、「購入すると言っているけど、ほんとうにそれでも購入するつもりですか、ヤクザの抗争が増えていますよ、何かあっても知りませんよ。」と言って止めさせようとした結果、「価格と立地条件に合っているけど、そこまで言われるのなら止めようか。」と言わせるような質問だ。
 
*住居を選ぶ際の意識について尋ねたところ、「避けると思う」「どちらかといえば避けると思う」と答えた人の合計の割合が最も高いのは、『(1)同和地区の地域内である』で54.0%、次いで『(3)近隣に低所得者など、生活が困難な人が多く住んでいる』が46.6%となっている。
一方で、「避けると思う」「どちらかといえば避けると思う」と答えた人の合計の割合が最も低いのは、『(5)近くに精神病院や障がいのある人の施設がある』で40.5%、次いで『(4)近隣に外国籍住民が多く住んでいる』が42.3%となっている。
と報告書にある。
 同和問題で土地差別があると大阪市民に言わせることに成功している。こういう嫌らしい質問を考えて、お望みの回答を引き出すのが、神戸学院大学の神原文子さんならではの手腕だと評価しよう。

*問7で同和問題をはじめて知ったきっかけについて尋ねたところ、「2.学校の授業で知った」と答えた人の割合が32.6%と最も高く、次いで「1.親や周囲の人の話で知った」が27.9%、「10.同和問題については、知らない」が8.1%となっている。
 と報告書にある。
 学校の占める割合が高い。学校で教えられるから、そしてその教え方に問題があるから同和問題が解決しないともいえる。神戸学院大学の神原文子さんなら、学校の占める役割が高いからもっと学校で教えよと言うだろう。

*問8 あなたは、同和問題について、学習した(または啓発を受けた)ことがありますか。それはどのような機会を通じてでしたか。また、それらの機会を通じて、同和問題についてどの程度、理解が深まりましたか。(それぞれ1つに○)
 同和問題に関する学習経験について尋ねたところ、「学習したことがある」と答えた人の合計の割合が最も高いのは、『(10)テレビ番組や映画などを観た』で40.8%、次いで『(2)中学校での授業』が38.2%、『(1)小学校での授業』が35.4%となっている。
 一方で、「とても理解が深まった」「理解が深まった」と答えた人の合計の割合は、『(10)テレビ番組や映画などを観た』で30.9%、次いで『(2)中学校での授業』が24.3%、『(1)小学校での授業』が22.1%となっている。
と報告書にある。
 神戸学院大学の神原文子さんなら、テレビ番組や映画など同和問題啓発の作品を作って、児童生徒、親などにどんどん見せていくべきだと言うだろう。学校での授業の比重も高く、がっこうでもどんどん教えなさいとも言うだろう。
 そいうように、答えるように仕組んであるのだから予想される回答なのだ。

*問9 あなたは、大阪市において、同和問題に関する差別意識や偏見が、現在も残っていると思いますか。(○は1 つ)
 同和問題に関する差別意識や偏見について尋ねたところ、「わからない」と答えた人の割合が32.4%と最も高く、次いで「現在も残っている」が30.6%、「薄まりつつある」が26.6%となっている。
 と報告書にある。
 差別がある、差別がある「現在も残っている」と言わせたいのにもかかわらず、大阪市民の目は確かだというわけだ。神戸学院大学の神原文子さんなら、しめしめ30%を超える市民に「現在も残っている」と言わせることができた、自分で自分を賞めてあげたいとでも言うだろう。

*問9 で同和問題に関する差別意識や偏見が「さらに強くなっている」「現在も残っている」「薄まりつつある」と答えた人に対して、その理由を尋ねたところ、「6.昔からの偏見や差別意識を、そのまま受け入れてしまう人が多いから」と回答した割合が59.3%と最も高く、次いで「7.いまでも同和地区の人が、行政から優遇されていると思うから」が39.9%、「1.結婚や住居の移転などに際して、同和地区出身者やその関係者とみなされることを避けたいと思うから」が31.6%となっている。
 と報告書にある。
「薄まりつつある」というのを、問9に含めるのは、意図的であり、不適当である。個人への責任の回答を引き出そうというわけだが、「行政から優遇されている」と思わせる実態があるから市民はそう考えるのだ。一般対策で同和問題の特別対策をやろうとするような市の姿勢を市民はよく見ているのだ。

*問9 で同和問題に関する差別意識や偏見が「3.薄まりつつある」「4.もはや残ってない」と答えた人に対して、その理由を尋ねたところ、「5.同和地区の生活環境が大きく改善されたから」の割合が25.0%と最も高く、次いで「1.自分の身近にいる人が話している内容などから」が24.5%、「8.とくにこれといった理由はない」が23.6%となっている。
と報告書にある。
 実態を見聞きすれば、このような結論になるのはとうぜんであり、さらに数値がアップするだろう。

*同和地区の人は、就職するときに不利になることがあると思うかについて尋ねたところ、「しばしば不利になることがある」「たまに不利になることがある」「しばしば、あるいはたまにの区分不明」と答えた人の合計の割合は、48.2%となっている。一方で、「不利になることはない」と答えた人の割合は14.1%となっている。
 と報告書にある。
 就職差別がまだまだあると宣伝しているのだから、そう考えるのは当然だ。ただ、ブラック企業がはびこり、非正規雇用が広がる中で、不利になるだろうと考える人が多くなるのも当然だろう。

*同和地区の人は、結婚する際に相手の親族などに反対されることがあると思うかについて尋ねたところ、「しばしば反対されることがある」「たまに反対されることがある」「しばしば、あるいはたまにの区分不明」と回答した人の合計の割合は60.5%であるのに対し、「反対されることはない」は4.8%となっている。
 と報告書にある。
 これも結婚差別がまだまだあるという教育啓発を行っているのだから当然だ。神戸学院大学の神原文子さんなら、就職差別、結婚差別があるあるという大阪市の教育啓発の成果があらわれている、もっとやるべきだという結論を引き出すだろう。

*人権問題について学習した中でいちばん印象に残っているものについて尋ねたところ、「とくに印象に残っているものはない、学習したことがない」と答えた人の割合が17.0%と最も高く、次いで「北朝鮮当局による拉致問題」が14.8%、「同和問題」が13.6%となっている。
 と報告書にある。
 人権問題のトップに拉致問題をもってきたいというのが、政府筋の意向である。その意向が反映した結果と言える。

*今の大阪市は市民一人ひとりの人権が尊重されているまちであると思うか尋ねたところ、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人の合計の割合は52.9%、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」と答えた人の合計の割合は43.9%となっている。
 と報告書にある。
 それなりに評価されているともいえるし、今ひとつ評価されていないともいえる結果である。

*個別の人権問題に関わって「人権が尊重されるまち」であると思うか尋ねたところ、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人の合計の割合は『(1)男性と女性がともに、仕事や家事、地域での活動に参加し、その個性と能力を十分に発揮できるまちである』が61.9%と最も高く、次いで『(5)高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるまちである』が59.0%、『(3)こどもが各々の個性を発揮し、夢や目標に向かって、いきいきと暮らせるまちである』が52.5%となっている。一方で、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人の合計の割合が最も低いのは、『(13)ホームレス状態にある人が自立して再び地域社会の中で生活を営めるまちである』で26.1%、次いで『(12)犯罪被害者やその家族が再び平穏に暮らせるようになるために、地域の人々の理解や協力が得られるまちである』が34.5%、『(14)LGBTなどの性的少数者の人が差別を受けることなく自分らしく生きることができるまちである』が39.7%となっている。
 と報告書にある。
 いずれにしても、同和問題の比重が低いといえる。

*個別の人権問題に対する大阪市の取組みについて尋ねたところ、「特に必要」「必要」と答えた人の合計の割合は、『(4)障がいのある人の人権に関する取組み』が92.6%と最も高く、次いで『(2)こどもの人権に関する取組み』が91.0%、『(19)個人情報の流出や漏えいの問題に関する取組み』が89.2%となっている。
一方で、「必要とは思わない」と答えた人の割合は、『(6)アイヌの人々の人権に関する取組み』が35.3%と最も高く、次いで『(15)性的指向が少数派の人々の人権に関する取組み』が24.8%、『(16)性同一性障がいの人々の人権に関する取組み』が24.4%となっている。
 と報告書にある。
 いずれにしても、これも同和問題の比重が低いというわけだ。神戸学院大学の神原文子さんなら、もっと同和問題と答えてくれる人がいても良いのに、当てが外れたと思われるかもしれない。

*各区役所に開設している人権相談窓口の認知について尋ねたところ、「知っている」と答えた人の割合は19.2%であるのに対し、「知らない」は77.9%となっている。専門相談員による人権相談窓口の認知について尋ねたところ、「知っている」と答えた人の割合は14.7%であるのに対し、「知らない」は81.8%となっている。
と報告書にある。
 人権相談と言えば、部落解放同盟そのものとも思えるような人権協会に丸投げしているような状態では、市民の認知度が今ひとつとなるのはやむを得ないだろう。